日記
ノーラの京都レジデンス・クリエイション レポート 

テキスト 水野立子 
2014.8.10

第1週目

2014/8/4(月)

今日は、ノーラが京都にやってくる日。拠点となる京都芸術センターのすぐ近くにウィークリーマンションの部屋を借り、ひと月ここで生活することになる。なので、少しでも快適になるようにと、スタッフの渋谷陽菜さんが細々としたことを準備をしてくれ、今日まで京都にいる佐東がTIMEのレンタカーを運転をして、自前の家財道具を持ち込んだ。日本風の暖簾や、和食器類、そしてノーラの希望でレンタル畳を入れた。
夜8時過ぎ、15時間のフライトを終えて到着したノーラは元気。和風になった部屋を喜んでくれたようだ。レンタルWi―Fiも繋がり安心した様子。その気持ちわかる。海外でネットが繋がらないと、世界の中で自分が一人でいるようで不安になるから。明日からクリエイション開始。

2014/8/5(火)

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猛烈に暑い日。京都芸術センターの2階の講堂が会場であり稽古場。アフリカ育ちのノーラは冷房を入れない。それでも全然、平気。気温はどんどん上昇し、絶対38度はある。窓は先月の台風対策で、針金で締め切られ開かずの窓。つまり・・暑じっーーったらない!!!!
ノーラは作品の台本を書く時は、PCではなく自筆で大きな紙に書いていくのだそうだ。早速アクティングエリアを決めながら、作品のコンセプトをダンサーの佐藤健大郎さんと、通訳の荻野ちよさんとシェアする。「父のような自画像」の動きの台本のタイトルは、<精神世界とのボクシングの試合>。劇場舞台がボクシングのリンクとなる。
男性ダンサー佐藤健大郎とノーラが並ぶと、男性の健大郎はか細い、女性のノーラは強くて逞しい。なんだかおもしろい。ノーラはしきりと*腰を落とすこと、*腹に力をいれること、を繰り返しアフリカンダンスの身体ポジションの基本を伝授していた。ノーラの動きには、人の体のマグマのようなパワーを感じる。

2014/8/6(水)

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2日目、再び激暑。11:00amから衣裳デザインの清川さんが京都芸術センターにきて、ノーラのジャケットの仮縫い。6月に来日したときに打ち合わせをして以来、ノーラが帰国後も、清川さんとノーラは、メールでデザインや素材のアイデアのやりとりを続けていた。女性であるノーラが男性になり、女性にもどるという作品のコンセプトをどんな素材を使って、どんなデザインになるのだろうか?楽しみ。今日の仮縫いのデザインをノーラはとっても気に入った様子です。

今日は稽古場に冷房が入っていた!ノーラ曰く、「日本人は、平気だ、と言うけど、doesn’t work だから冷房入れるー。それにまったく入れないと確かに湿気が多くてきつい。」日本人は脆弱だなー、だけど、わたしゃ助かったー。
男性ダンサーアシスタントは、佐藤健大郎と垣尾優さんと交互で日替わりで稽古に参加する。まだ途中経過発表に出演するかどうか決まっていない。日本人男性の身体をノーラが発見するため、アシスタント・ダンサーとして稽古に参加している。今日の垣尾くんとの稽古は、昨日とやり方を変えて、台本の説明はあまりなしで、早速動きから入る。垣尾くんは、CONTACT GONZOのメンバーだったので、やっぱ戦いの動きが様になっているなあ。

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舞台監督の浜しゅーが来ておみくじスクリーンを設置。300枚じゃ足りなくて、500枚追加で折る。長い廊下はボクサーがリングに上がるまでの道。その先に写る影は父の象徴。自分の歩んできた道のようにも、歴史のようにもみえる、人生の道程。そんな舞台セットのイメージ。

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稽古の後、4階和室で能楽シテ方観世流能楽師:田茂井廣道さんのレクチャーを受ける。能の「間」「コミ」のこと、舞と楽の緊張関係、男と女の舞の違いなど、600年の伝統で培われてきた深いトピックス満載。ノーラも大興奮、感動。田茂井先生曰く、「伝統芸能は、一人でも多くの人が触れてもらうこと、やってみてもらうことでしか、生き残れない。」とおっしゃった言葉に説得力を感じました。
今日は盛りだくさんな1日だったなあ。

2014/8/7(木)

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猛暑続く。11時半から夏休みの子供のための能のイベントがあり、大江能楽堂にノーラと自転車でツーリング。京都だからこそ、いまだに残っている木造の能楽堂が町のど真ん中にある、贅沢な文化の街にノーラは感動、me too。桝席の傾斜が見やすい客席、黒光する柱が柔らかい存在にみえる。昨日の田茂井先生の話を思い出した。舞台の前にある2本の柱は、シテ方(パフォーマー)が舞台から落ちないように、目印の役割になっているそうだ。30分の能の出し物をみた。子供は騒いでうるさいのだが、さすがに舞台が緊張感を持つ囃子方や舞の場面になるとシーンとなる。ノーラは終始笑顔で楽しんでいた。鬼がどんな嘘をも見破ってしまう鏡をバーンと客席にかざすところに大笑い、わかりやすい演出!
6月にノーラが京都に来たときに一緒にいった町屋つくりのコーヒー屋さんが大のお気に入りで、そこに行きたいと再び寄り道。ノーラは大のコーヒー好き。ただ、ほとんどのコーヒーがお気に召さない。「ネスカフェ」とばっさり切られる。が、このお店のマスターが丁寧に入れるコーヒーが大好き。そして白砂糖は頭が痛くなるので、黒砂糖派。このお店が黒砂糖なのも大好き。コーヒーを飲みながらボドロフスキー監督の映画の話から、急に「Ritsuko、舞踏でよく使っている男性のシンボル玉を買いたいのだけど、どこに売ってる?」と言われ、何のことかと思いきや、よく舞踏の写真に出てくる男性のツンのように膨れているのを自分もつけたいということらしい。あれは売ってないんだよなー。うーん、つくるしかないねえ。

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14時からの稽古にもどると今日は照明のあさ子さんが、仕込みにきてくれていて、影の調整、黒幕を吊ったほうがいいね、とか作業してくれた。

2014/8/8(金)

6月に帰るときに「ボイスの人とやりたいから誰かいない?」という宿題をノーラから渡されていた。今日は、とりあえずノーラとボイスのセッションしてみようという日。関西で活躍しているボイスパフォーマーの田中真由美さんに辿り着きました!マミさんは、わたしが白虎社で活動していた同時期、ダムタイプでパフォーマーだったそうです。つまり同世代。お互い会った記憶がないのだが、どこかで会っていたのかも、と電話で話す。今回「熱風」の映画に俳優として出演している川口隆夫さんの仲間でもあります。

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ノーラは天使のような唄声の持ち主のマミさんの声を聞いて、最初のパートを「天使」とよぶことに。黒人のワイルドなノーラと、天使の真美さんが、真逆でおもしろい!と。変幻自在な高い声を持つボイスと、ノーラのボクシング・ダンスがマッチする。「Ritsuko、ボクシングの世界チャンプのモハメド・アリのセコンドは、実の弟だったの知ってる?自分のことのように、アリをモーレツに応援しつづけたの。それがすごく、いいんだよね!このシーンは「旅」。ボクサーが楽屋からリンクに向かい歩く、自分との孤独な戦いの時間なのよ。」

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2014/8/9(土)

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台風の雨が心配。今日は遠出する日。歴史ある大野一雄舞踏研究所にノーラと一緒に、大野慶人さんのお話しを聞きに行く日。時間どおりに新横浜について、在来線に乗り換えて上星川駅に着いたら、通訳をしてくれる川口隆夫さんが、もう改札口で待っていてくれた。噂に聞いていた急な坂道を上ると、白いスタジオが見える。慶人さんは、本当に優しく誠実一杯に舞踏のこと、父・大野一雄さんのこと、最近のご自分の活動のこと、新作「鳥」をつくっていること、などをお話しと、踊りを交えて説明してくださった。慶人さんがお母さんのために踊りを始めたこと、父一雄さんの踊りの中には、お母さん、女性の優しさと強さがはいっていることなど、贅沢な時間をいただく。おいしい稲荷寿司をご馳走になり、精神もお腹も一杯になり、帰りの新幹線でノーラは爆睡していた。
日本の文化のひとつといえる舞踏の歴史的な場所に、実は私も初めて訪問できました。ノーラと行けたことが嬉しかった。

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日本に着いてからの最初の週が終わる。たくさんのプログラムをこの週に詰め込んだのは、来週からは作品の制作にさらに時間を費やすだろうから。
ダンサー垣尾優、佐藤健大郎の2名とも出演し、ボイスの田中真由美さんも参戦することになりました。来週から第2ラウンド開始です。