クリエイション日記
5月の出来事

テキスト 飯名尚人
2014.5.31

■キューバ革命から55年が経って、キューバで新車販売を開始できるようになった、というニュースをみた。そうだったのか。知らなかった。あのアメ車は今まだ現役だったのだ。新車の価格は2600万円!買えるわけがない。税金が通常の8倍かかっているそうだ。社会主義国のルール。そのことを平野さんにメールした。

■モスクワ、ハバナ、サラエボの町のサウンドを収録してくれる人を探す。モスクワに知り合いいるから聞いてみるよ、と川口隆夫さん。平野さんは「サラエボで撮影したときの当時のガイドに連絡してみる」とのこと。ハバナは、キューバ映画に詳しい濱治佳さんが探してくれて紹介してくれた。

■笛田さん演出の『4時48分サイコシス』を観劇。サラ・ケインの戯曲。笛田さんの言う「演劇としての身体」「演劇としての言葉」について考える。コルテスの『森の直前の夜』とサラ・ケイン『4時48分サイコシス』には、身体が発する言葉があるのだ、と笛田さんが教えてくれる。演劇だから身体と言葉があるのは当たり前、と思いきや、たしかに身体と言葉が不在の「デザインされたビジュアル演劇」の時代になってきたようにも思う。俳優よりも演出家のための演劇。構成で見せる演劇。コンセプトで見せる演劇・・・。『熱風』はどうなるだろうか。演出家のための舞台にはならないように。

■水野さんがアフリカから帰国。車から外を撮影した動画をもらう。i phoneで撮影したもの。すごくきれい。おもしろい。ノーラの写真ももらった。webに掲載したい。

■沖縄のShinbowさん(ミュージシャン)に電話。事前に台本を送ってあったので、そろそろ読んでくれたかなと思い、そのタイミングで電話。出演依頼をしたが諸事情があって今回は出演できないとなった。けれど「今回は無理でも、この作品には関わってもらいたいので、クリエイションには参加してほしい」と伝えると、「諸事情がなければ、本当は是非やりたい」と言ってくれた。なので継続して連絡を取ろうと思う。沖縄の撮影のときに、会いにいくことになった。

■Marina Grzinicさんは、平野さんの写真展を開催した人(クロアチア)で、彼女からAdla Isanovicさんを紹介してもらう。バルカン半島が大洪水だそうで、Adlaさんからのメールでは「紛争時に残っていた地雷が洪水で流れ出していて、とても怖い」という返事がきた。まだ終わっていない、と察する。紛争も戦争も、ドンパチが終わっても、日常の中にいろいろなものが残っているんだなと察する。
笛田さんとメール。森下スタジオでの稽古の日程など。先日の笛田さん演出の公演「サイコシス 4時48分」に関することをメールで感想を言う。

■ノーラの写真をwebサイトに掲載したところ、平野さんからメール「ノーラとアフリカの土の写真いいですね。平野の場合、あなたの「熱風」が設定する壮大な余白、伸びしろにこのアフリカの土•大地から出発したご先祖様の過去の軌跡と、何が有っても生き延びていくだろう人類の未来を感じます。ノーラ良いね!切株写真とMONEYに挟まれた熱風の余白空間で踊るノーラの肉体とダンスはきっと命•生命として美しく輝くだろうね。」

■モスクワから、早速録音のサンプルが送られて来た。Thomas Stenzelさんが協力してくた。町の音。エスカレーターに乗っているような音がしていて、奥に薄らとロシア語が聞こえる。

■沖縄の撮影で、前田さんに協力を依頼する。美術館の副館長になっておられた。電話したら、いつもの穏やかな感じで「スケジュールを空けて協力するから」と言ってくれた。撮影場所の映画館を交渉してくれるとのこと。

■フライヤーのレイアウトデザインは松見くんが担当。NAZEくんが表紙となるイラストを描いてくれる。松見くんは、以前京都精華大学で僕の講義をしたときに参加してた。今は立派なデザイナー。パフォーマンスの授業で、彼はジャンベ叩いた。同じグループにケイトリンがいて、ケイトリンは大量のパスタにまみれて暴れるパフォーマンス。

■川口隆夫さんが「山城知佳子さんが沖縄の撮影を手伝ってくれるか、聞いてみようか」ということで連絡してもらう。沖縄在住で映像作家・美術家の山城さんがスタッフをやってくれるとは、、、なんだか緊張するな。笛田さん、川口隆夫さん、山城さん、美術館の前田さん、、よく僕のような者の企画に参加してくれるなぁ、と他人事のように思ったりもする。

■水野さんとやりとり。僕が「ワークインプログレス」という言葉が一般的じゃないので、違う表現にしたい、という旨を伝える。どういう言い方にすべきか、議論が続く。専門用語って苦手。専門の人にしか伝わらないから。

■笛田さんからメール「「熱風」の上演に向けて、「森の直前の夜」と「4時48分サイコシス」のことなどについても少しゆっくり話せるのを、楽しみにしています。それでは、よろしくお願いします。」

■川口さんに「映画シーンの曲何がいいかな?」と相談。「ホテルカリフォルニア!」という返信。さっそく「ホテルカリフォルニア」の歌詞を読み、i tunesで曲が購入。聞きまくる。面白い、良い曲。さすが川口さん。

■濱治佳さんが、平野さんのキューバの写真を観てくれて「95年に撮られたキューバ映画があって、平野さんの写真が撮影された時期と同じだから、観ますか?」という連絡をもらい、映画をお借りできることになった。

■サラエボ在住のジェナン君がサラエボの音楽を教えてくれた。 "Sarajevo ljubavi moja" (Sarajevo my love) is most recognized song of Sarajevo, its song from 1976 year。どんな歌詞なのか知りたい。

■平野さんからメール「「熱風」の余白、伸びしろにアフリカから出発し霊長類からの700万年、現生人類としての20万年間の時間量、世界の陸地に考古学でしか解明できない人間の様々な出来事、近代のMONEYシステムの強制からくる人類史上もっとも困難が予想される地球温暖化を加速させる現代、しかし、これからも遥かに続くであろう、「人間の行方」の未来をみます。」

■ケイトリンが、台本の英訳をしてくれた。相当大変だったみたい。

■京都精華大学の講義で、「熱風」について少し学生に話す。ひとつのビジュアルの裏にある物語の奥行き、というような話。平野さんの切り株写真の背景になるストーリーについて。

■水野さんから「チラシに掲載する熱風の解説文を、小説風に書いて送れ、かっこいいやつ」という指令を受け、必死に書く。「この島では100年に1度、熱風が吹く。その熱風に触れると、溶ける人と溶けない人がいる。明日はその熱風が吹く日だ。映画監督「私も溶けるのでしょうか?」島民「さあ、それは誰にも分からないよ。」真夏、炎天下に置かれた車に乗り込みエンジンをかける。火傷しそうなハンドルを指だけで握ると同時に冷房を最大にして勢いよくスイッチオンにする。カビとオイルの匂いの交じった熱風が顔面に一瞬にして襲いかかる。苛立ちだけを残して、熱風はもうそこにはいないから、この暴力には証拠がない。そんな一瞬の出来事の蓄積に堪えている。沖縄ーモスクワーキューバーカンボジアーサラエボータスマニアージンバブエを、写真ー映画ーダンスー演劇ー音楽が巡る。」

■東京造形大学で「パフォーマンスと映画」の授業。学生からの質問に答える。「しつこさ」と「抽象」ということについて伝える。帰り道、抽象というのは、全体をぼかすことではなく、ある一点をグングン追究してそこだけを仕上げていくことだ、と気がつく。多くの抽象表現は、全体のぼかして曖昧にしているに過ぎないようにも思えてきた。あるいは意図せずただ全体がピンぼけになっているだけのものすらある。一点を深入りして、しつこくそこだけに向かうと、そのことに意味が無くなってきて必然的に抽象になる、と思った。

■川口さんがロスから戻って来たので連絡。沖縄ロケのスケジュール。それと、別件で『大野一雄について』の今後の展開と、秋に上演される『パーフェクトライフ/表参道』のリハーサルの件。

■水野さんから「アフリカ日記」をテキストでもらう。WEBに掲載する準備をしなくては。

■沖縄での撮影機材をどうするか悩む。いつものようにZ7Jで撮影するか。あまりかしこまった、形式ばった映像ではなく、ハンディ撮影を基本としたドキュメンタリーのようなテイストにしたいと思う。テレビの取材というような雑さもいい。ホームビデオ的な記録映像。画質やデザインよりも、何が撮れているかに重きを置く。これがホームビデオの重要な定義である。どうするべきか。「機材」って「手法」とも言える。どんな機材を使うかで作風も決まってくる。「これが自分の機材」というものが決まれば、浮気しないこと。映像ってそういう仕事。

■セバスチャン・サルガドについて調べる。「アフリカ」という写真シリーズがあって、amazonで発見。8000円くらい。