作品解説

この島では100年に1度、熱風が吹く。
その熱風に触れると、溶ける人と溶けない人がいる。
明日はその熱風が吹く日だ。

 「私も溶けるのでしょうか?」
 「さあ、それは誰にも分からない」

真夏、炎天下に置かれた車に乗り込みエンジンをかける。火傷しそうなハンドルを指だけで握ると同時に冷房を最大にして勢いよくスイッチオンする。カビとオイルの匂いの交じった熱風が顔面に襲いかかる。苛立ちだけを残して、熱風はもうそこにはいない。


自分のせいではないのになぜか自分の責任になっていたり、、、よかれと思ってしたことが非難されたり、、、、日常生活でも些細でありながら重大な軋轢というのはあります。そのことと、今世界で巻き起こっている様々な事件は、何かが通底しているように思います。一体誰が悪くて、誰が善いのか。それを決める手段は果たしてあるのだろうか。その通底する何かを言い当てることは難しい。しかし確実に「熱風」が我々に吹き付けてきているように感じます。この作品「熱風」は、原因の分からない何かに翻弄される人々を描いています。また吹き付ける「熱風」に立ち向かう人もいれば、溶けて消えてしまう人もいます。自分はどっちだろうか・・・。

写真家・平野正樹の写真シリーズ『人間のゆくえ』では、「私たちはこれからどこに行くのだろう」ということがテーマです。この写真シリーズで新たに語られていくのは、過去として「私たちは、どこから来たのだろう」そして、現在として「すべての出来事は、人間の内面から生まれてくるのではないだろうか?」ということ。

なぜあの国はあんなことになっているのだろう、なぜあの人たちはあんな風に暮らしているのだろう、なぜ私はこんななんだろう、、身近なこと、世界のこと。その原因は分からないけれど、その人たちには「熱風」が吹いている。

我々に吹き付ける「熱風」を巡り、モスクワ、キューバ、カンボジア、サラエボ、沖縄、タスマニア、ジンバブエを横断し、様々な人々との対話から生まれたパフォーマンスです。

テキスト:飯名尚人